海外法人は日本で事業用不動産を借りられるのか?
2025/04/18
海外企業が日本でビジネスを展開する際、避けて通れないのが「事業用不動産の賃借」です。
しかし、海外法人が日本で不動産を借りることは、法律的には可能であっても、実務面ではさまざまなハードルが存在します。
本記事では、実務的な観点からその課題と対応策を詳しく解説します。
目次
海外法人は日本で事業用不動産を借りられるのか?
借りることは理論上は可能
海外法人(日本に法人登記のない外国企業)であっても、日本の法律上、事業用不動産を借りる権利はあります。
外国人または外国企業による不動産取引は、日本の民法や借地借家法により制限されることは基本的にありません。
ただし、理論上可能であっても、実務では多くの壁が存在します。
実務的に借りるのが難しい理由
海外法人が日本で不動産を借りる際、以下のような実務的な問題点が発生しやすく、オーナーや管理会社から敬遠されることがあります。
信用情報の不足
日本での法人登記がないため、商業登記簿での確認ができない。
日本語で整った決算書がない、または開示されない。
現地での信用調査が困難。
契約主体の不明瞭さ
契約者が誰か明確でない場合、法的なリスクが高まる。
裁判管轄や執行の問題から、契約回避されやすい。
手続きの煩雑さ
書類の確認・翻訳・捺印・国際郵送等に時間とコストがかかる。
日本の印鑑証明・住民票など提出できないケースが多い。
連帯保証人の確保が困難
日本に基盤のない企業は、日本国内で信用力のある保証人を見つけにくい。
言語と意思決定の壁
契約交渉や入居後の管理で、言語や時差、商習慣の違いによる摩擦が発生。
登記上の不明確性
契約主体の代表権や適格性の確認が難しく、貸主側が懸念を抱きやすい。
海外法人がまずやるべきこと:日本法人の設立または日本支店の設置
海外法人が日本で事業用不動産を借りるには、まず「日本国内に登記された拠点」を持つことが、実務上ほぼ必須となります。
これは、契約主体を明確にし、オーナーや管理会社からの信用を得るための第一歩です。
主に以下の2つの方法があります。
日本法人(現地法人)を設立する
日本法に基づく独立した法人として機能し、取引や契約において主体性が明確になります。
概要
「日本法人」とは、海外法人とは別に日本国内で新たに登記された法人であり、独立した法人格を有します。
主に株式会社や合同会社の形態が選ばれます。
ポイント
日本国内での独立した法人格を持つため、取引先からの信頼を得やすい傾向があります。
外国籍のみの役員構成でも設立は可能ですが、日本に居住する責任者を置くことで実務上の手続きが円滑になります。
設立後は日本法人として、国内の法令・税制に従って運営されます。
設立時には、会社の目的や構成、将来の事業展開に応じた十分な準備が求められます。
日本支店を設置する
海外本社の一部として日本に登記された拠点であり、手続きは比較的簡略ですが、本社の責任が及ぶ点が特徴です。
概要
「日本支店」は、海外法人の一部門として日本に登記される拠点であり、日本における事業活動を可能にする形態です。
独自の法人格は持たず、本社がすべての責任を負います。
ポイント
法人格は本国の法人のままであるため、契約や登記は本社名義で行われます。
日本においては「支店」としての拠点に課税されます。
一部の取引や契約において、支店形態では制限や慎重な審査を受けることもあります。
支店の設置・撤退の手続きは、日本法人に比べて柔軟な側面があります。
それぞれの方法には長所と短所があるため、事業の規模・計画・税務・将来展望などを総合的に踏まえて選択することが大切です。
どちらの方法であっても、日本国内に登記された法人・拠点があることは、不動産契約を前提とする際の「信頼の証」となります。
立和コーポレーションでは、多言語対応可能な手続き代行業者(行政書士)のご紹介も可能です。
【参照推奨】ジェトロ(日本貿易振興機構) – 対日投資ガイド
https://www.jetro.go.jp/invest/setting_up/section1/page1/
不動産市場の現実:供給<需要の競争状況
日本の特に首都圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)では、
貸工場、貸倉庫、貸事務所、貸地などの良質な物件は常に高い需要があり、供給が追いついていません。
このような競争市場において、実績がない海外法人は非常に不利となります。
他の入居希望者が日本法人かつ信用情報が揃っていれば、そちらが優先される傾向があります。
交渉を進めるための工夫と戦略
実績のない海外法人が日本で不動産を借りるためには、いかにしてオーナーからの信頼を得るかが重要な鍵となります。
以下のような対策を講じることで、契約成立の可能性を高めることができます。
日本法人名義での契約
契約主体が日本法人であることで、信用評価が大きく向上します。
日本国内での登記と銀行口座の存在が、信頼性の裏付けとなります。
親会社の信用力をアピール
親会社が世界的に認知された企業である場合、その財務的安定性や実績を証明できる資料(決算書、会社案内、格付けなど)を提示することで信頼性を補完します。
会社概要・事業計画の明示
業種、資本金、事業内容、日本での活動目的などを明記した会社概要資料を用意。
さらに、日本での事業計画(収益見通し・雇用計画・拠点計画など)を詳細に説明することで、長期的な信頼関係構築に寄与します。
日本人担当者や専門コンサルタントの設置
契約交渉から入居後の管理に至るまで、日本語で対応できる人物が窓口となることで、オーナーの不安を軽減できます。
不動産・法務に精通した外部コンサルタントの活用も有効です。
連帯保証人の確保・保証会社の利用
日本国内の法人または個人が連帯保証人となることで、審査通過の可能性が高まります。
家賃保証会社を利用する選択肢もありますが、海外法人や設立直後の法人は審査が厳しくなることがあるため、事前の確認が必要です。
オーナーが重視するポイントの把握と説明
契約の安定性、賃料支払能力、建物用途の適正性、近隣環境への配慮など、オーナーの視点に立った丁寧な説明が求められます。
特に用途に関する規制や近隣とのトラブル回避への配慮が明示されていると、印象が良くなります。
まとめ
海外法人が日本で不動産を借りるには、法律的には可能でも、実務では多くの準備と工夫が求められます。
日本法人や支店の設置は、そのための重要なステップです。
市場環境や契約上の信頼構築を見据えたうえで、慎重に進める必要があります。
宅地建物取引業 国土交通大臣免許(3)8600号
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