建築基準法の「大規模修繕」とは?【必見!】事業用建物売買取引の注意点
2025/10/16
「うちの工場の壁、そろそろ直さないと…これって『大規模修繕』?」
「役所への申請って必要なんだろうか?」
建物の維持管理を担当していると、そんな疑問が浮かぶことがありますよね。
建物を長く安全に使い続けるためには、どこを、どれだけ直すかを正しく見極めることがとても大切です。
本記事では、建築基準法で定められた「大規模修繕」について、基本から分かりやすく解説します。
倉庫や工場、事務所といった事業用建物を扱う方が知っておくべきポイントや、物件売買の際の注意点まで、順番に見ていきましょう。
【ご注意】本記事は一般的な解説です。実際の計画にあたっては、必ず設計者や建築士、管轄の役所にご確認ください。
目次
そもそも「大規模修繕」ってどんな工事?
一言でいうと、大規模修繕とは「建物の骨格部分(主要構造部)を半分以上、修繕・模様替えすること」を指します。
ペンキの塗り替えや内装の張り替えといった表面的なリフォームとは違い、建物の安全性に直接関わる工事のため、建築基準法でルールが定められています。
そのため、工事の内容によっては「建築確認申請」という手続きが必要になる場合があります。
なぜ「大規模修繕」にはルールがあるの?
建物は、そこで働く人々や資産を守る大切な器です。
特に、建物を支える骨格部分を大きく変更する工事は、地震や火災に対する安全性に大きな影響を与えます。
万が一の事態を防ぐため、法律によって工事内容が適切かどうかを事前にチェックする仕組み(建築確認)が設けられているのです。
「建物の骨格(主要構造部)」とは?
建築基準法で「主要構造部」とされるのは、以下の6つの部分です。
建物の構造を支える、まさに「骨格」となる重要なパーツだとイメージしてください。
柱 建物を縦に支える骨
梁(はり) 柱と柱をつなぐ横の骨
床 人や物が乗る水平な面(そのものを支える構造部分)
屋根 建物の一番上を覆う部分
階段 上下の階をつなぐ通路
壁(耐力壁) 地震や風の力に耐える重要な壁
これらの部分を半分以上直したり、取り替えたりする工事が「大規模修繕」に該当する可能性が高くなります。
具体的にどんな工事が当てはまるの?
言葉だけでは分かりにくいので、具体例を見てみましょう。
該当しやすい工事の例
■倉庫の耐震性を上げるため、多くの柱や梁を補強・交換する
■工場の広い範囲の耐力壁を新設・撤去する
■事務所ビルの床を広範囲にわたってコンクリートで厚くする
該当しないことが多い工事の例
■外壁の塗装や、窓周りのゴム(シーリング)の打ち替え
■室内の壁紙や床材の張り替え
■エアコンや照明など、建物の骨格に影響しない設備の交換
【必見】売買取引で失敗しない!大規模修繕を計画する際の注意点
中古の事業用建物を購入して大規模修繕を計画する場合、その建物の「履歴」が非常に重要になります。
ここでは、建物の状態に応じた4つのケースと、それぞれの注意点を解説します。
ケース1:建築確認済証・検査済証がない
最大のリスク!
■違法建築の可能性: 建てられた当時から法律を守っていない恐れがあります。
■是正命令のリスク: 修繕をきっかけに違反が発覚し、多額の是正費用や使用制限がかかることも。
■融資・保険の壁: 銀行の融資や火災保険の加入が非常に難しくなります。
売買前にやること
■役所調査: 建築指導課などで、建物の公式な記録を確認します。
■専門家による建物診断: 建築士に依頼し、建物の現状と法的な問題点を徹底的に洗い出します。
ケース2:建築確認済証・検査済証はあるが、設計図書がない
注意が必要!
■合法性の骨格はOK: 最低限の適法性は確認できます。
■詳細不明のリスク: 細かい部分の設計が分からず、修繕計画が立てにくい状態です。後から図面と違う部分が見つかるリスクも。
売買前にやること
■図面の捜索: 役所、元々の設計者・施工会社、管理会社などをあたって図面を探します。
■復元図の作成: 現状を採寸して、現在の状態の図面(復元図)を作成します。
ケース3:確認済証・検査済証・設計図書がすべて揃い、現状と一致
理想的な状態!
■スムーズな計画: 建物の情報が正確なため、修繕計画や役所への申請がスムーズに進みます。
売買前にやること
■役所との事前協議: 計画内容を早めに役所に伝え、手続きの要否や必要書類を確認します。
■事業計画との両立: テナントがいる場合や自社で操業中の場合は、工事中の事業継続計画を早期に立てます。
■融資・保険の交渉: 耐震補強などを行う場合、建物の評価が上がり、融資や保険の条件が有利になる可能性があります。
ケース4:書類はすべて揃っているが、設計図書と現状が不一致
隠れたリスクあり!
■無届け改修の可能性: 過去に届け出なしで間仕切り壁の変更や開口部の設置が行われている可能性があります。
■法律違反のリスク: 用途変更などに伴い、現在の避難経路や防火設備が法律に適合していない恐れがあります。
売買前にやること
■不一致箇所のリスト化: 図面と現状が違う部分をすべてリストアップし、安全性への影響度を確認します。
■適法化の検討:
1. 元に戻す: 違法な改修部分を撤去し、元の図面通りの状態に戻す。
2. 現状を追認する: 変更申請などを行い、現在の状態を合法化する。
■費用・工期の試算: 大規模修繕と同時に是正工事を行うことで、コストや時間を効率化できるか検討します。
ケース | 状態/前提 | 主要リスク | 売買前にやること |
---|---|---|---|
①建築確認済証・検査済証がない | 最大のリスク! | ・違法建築の可能性:当時から法令不適合の恐れ ・是正命令リスク:修繕で違反が露見し、是正費用や使用制限が発生 ・融資・保険の壁:融資審査・火災保険付保が困難 |
・役所調査:建築指導課等で台帳 ・確認/検査履歴を公的確認 ・専門家診断:建築士による現況調査 ・法適合の論点洗い出し |
②確認済証・検査済証はあるが、設計図書がない | 注意が必要! | ・合法性の骨格はOKだが詳細不明で設計入力が不足 ・後出し不一致:過去改修の履歴不明で後から不一致が判明しがち |
・図面捜索:役所、指定確認検査機関、元設計者・施工会社、管理会社を当たる ・復元図作成(As-Built):実測+必要に応じ非破壊調査 |
③確認済証・検査済証・設計図書が揃い、現況一致 | 理想的な状態! | ・スムーズな計画:正確な情報により設計・申請が円滑 | ・事前協議:計画内容を早期に役所へ共有し、手続要否・必要書類を確認 ・事業継続計画:テナント/自社操業と工事の両立を早期に設計 ・融資・保険交渉:耐震補強等で条件改善の可能性を検討 |
④書類は揃うが、設計図書と現況が不一致 | 隠れたリスクあり! | ・無届け改修の可能性(開口・間仕切り等) ・法令不適合の恐れ:用途変更等で避難・防火が不適合 |
・不一致リスト化:部位/範囲/発生日/影響(構造・防火・避難・設備)を可視化 ・適法化の選択:①元に戻す(是正工事) ②現況を追認(変更申請) ・費用・工期試算:大規模修繕と同時施工で効率化を検討 |
まとめ
大規模修繕は、建物の寿命と安全性を左右する重要な工事です。
特に事業用建物の場合、その判断が事業継続や資産価値に大きく影響します。
「これは大規模修繕かな?」と感じたら、まずは自己判断せず、早めに設計者や建築士などの専門家に相談することが、成功への一番の近道です。
宅地建物取引業 国土交通大臣免許(3)8600号
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